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離婚後の落とし穴。よくある相続トラブル2選、防ぐための注意点は

桑田 悠子

離婚後の落とし穴。よくある相続トラブル2選、防ぐための注意点は

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こんにちは。相続専門税理士の桑田です。今回は離婚と相続をテーマに、よくあるトラブル事例2つと、それを防ぐ方法を徹底解説します!ご両親が離婚されている方、ご自身や配偶者が離婚されている方、必見の内容です。ぜひ、最後までご覧ください。

①生命保険金の受取人が前妻のままになっている

生命保険
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前妻(前夫の場合も同様。以下同じ。)と婚姻関係にある間に契約した保険について、受取人変更をせず、前妻が受取人の状態で、お亡くなりになるケースがあります。
そのような場合、遺言書で受取人変更の記載がされており、その遺言書を使用して保険金請求を遺族が行わない限り、前妻が生命保険金を受け取ることになります。

ここで、3つの問題が生じます。

1.生命保険金の非課税枠が適用されない

1つ目は、生命保険金の非課税枠が適用されない点です。相続人が受け取る死亡保険金は500万円×法定相続人の数までは相続税がかかりませんが、これは相続人が受け取る場合にのみ適用されるため、相続人ではない前妻には、この非課税制度が適用されません。

2.相続税の2割加算の対象になる 

2つ目は、生命保険金の非課税制度を適用できないだけでなく、相続税が1.2倍になる2割加算の対象となる点です。そのため、受け取る生命保険金のうち、何割かが、相続税の支払いで消えてしまう可能性があります。

3.前妻が現妻などの相続人と一緒に相続税申告をする必要がある

3つ目は、この生命保険金を含めて相続税を計算した場合に、相続税申告義務が生ずるときは、前妻と、相続や遺言で財産を受け取る後妻、そして、故人の子供達と一緒に相続税申告をしなければいけない点です。つまり、後妻の立場からすると、故人の遺産の全貌が前妻にも分かってしまうということです。前妻と後妻の関係性が良好であれば、大きな問題にならないかもしれませんが、良好でない場合には、両者にとってストレスになりますよね。

このように、生命保険金の受取人を、離婚後も前妻のままにしていると、税金的にも、手続き的にも負担が大きくなってしまいます。もし、前妻にお金を残したいのであれば、生命保険金ではなく、生前贈与で渡し、相続税の世界と切り離す方法がおすすめです。

また保険の受取人は、簡単な手続きで変更できる会社がほとんどですので、今一度、契約を見直し、必要な場合には、受取人変更をしましょう!

②申告期限までに分け方が決まらないと、高い相続税を自腹で支払う必要がある

書類を見て驚く女性
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相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日から10カ月以内と定められています。遺言がなく、遺産分割協議で故人が残した財産の分け方を決める場合、相続税の申告期限内に分け方を決めて、それに応じた相続税を支払わなければなりません。しかし、相続人間で合意が取れないと、その期限までに分け方が決まらないこともありますよね。その場合には、1度、法定相続分で「未分割申告」を行う必要があります。

この未分割を行う際、3つの注意点があります。

1.相続税の各種特例が適用されない

まずは、相続税の各種特例を適用できない点です。
相続税の計算では、「小規模宅地等の特例」という自宅等の土地を80%OFFや50%OFFで評価することのできる特例や、「配偶者の税額軽減」という、配偶者は法定相続分か1億6千万円のいずれか大きな金額までは無税で相続できる制度を利用することができます。しかし、これらは、申告期限までに分割ができていた場合に限り使うことができる制度です。

つまり、「未分割申告」の際には、使えないので、たとえ配偶者であっても、これらの特例を使わない計算の相続税をまずは支払わなければいけないのです。

なお、この未分割申告の際に、一定の書類を添付し、その後、所定の手続きを踏めば、分割確定後に、特例を使った場合の税金との差額の還付を受けることができます。

2.相続税を自腹で支払わなくてはならない

次に、自腹で相続税を支払わなければいけない点です。
先ほど、特例などは使えないとお話した際、「高くても、相続した預金から払えばいいんじゃない?」と思った方もいらっしゃると思います。ところが、死亡に伴い支払われる生命保険金以外の通常の預金などは、相続人全員の合意がないと解約することができないので、生命保険金などがない場合には、まずは相続人自身の預金から、相続税を支払わなければいけません。最高150万円までであれば、預金の仮払い制度で引き出すことができますが、それで間に合うでしょうか…。

3.申請書漏れや申告忘れで数千万円のリスクが

最後に、申請書を1枚提出し忘れるだけで、相続税が数千万円変わるリスクがある点です。分割確定後に、税金の還付を受けるためには、亡くなってから10カ月以内に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する必要があります。分割見込書は申告書と同時に提出する必要があり、後出しはNGです。この紙1枚で、税金が大きく変わる可能性があるということです。

無事に「申告期限後3年以内の分割見込書」を出して、申告をした後、遺産分割が決まったとしても、ホッとして、のんびり過ごすことはできません。分割確定から4カ月以内に「更正の請求」という還付の手続きをしないと、還付を受け取ることは出来なくなってしまうのです。よく、相続争いがやっと終わり、ほっとして、気づいたら4カ月を過ぎていた!なんて話を聞きます。これでは、本来返ってくるはずの、払い過ぎた税金を取り戻すことができません。この4カ月は注意してください。

また、調停や訴訟で、相続税申告期限から3年経っても分割が決まらない場合には、その相続税申告期限から3年と2カ月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出する必要があります。この紙1枚も非常に重要です。なおこれは、弁護士を入れていても、裁判外で争っているような場合には、この対象になりません。つまり、申告期限から3年以上、裁判外で争っていると、払い過ぎ部分の相続税還付は受けられないということです。

このように、未分割の状態で、申告期限を迎える場合、大変なことがたくさんあります。そのため、生前から家族会議を設けたり、遺言を作成するなど、早めから対策をされることをおすすめします。その際には、相続専門の専門家にご相談くださいね。