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離婚時の「年金分割」とは?請求しないともらえる年金が減る!?

そなえる 白浜 仁子

離婚時の「年金分割」とは?請求しないともらえる年金が減る!?

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3組に1組が離婚をすると言われる時代。婚姻期間が短い若い夫婦だけでなく、子どもの自立後に離婚するケース、定年後の離婚といった熟年夫婦の離婚のケースも増えています。離婚が頭をよぎる時に気になるのは一人で生きていくための資金的なこと。ここでは、離婚時の年金分割の仕組みや手続き、年金分割によって増額される年金額はいくらか、ということについてみていきましょう。

年金も離婚時の財産分与の対象

離婚をする時、財産分与について話し合いをします。夫婦で築いた資産を分けるのですから、名義は関係ありません。婚姻期間中に夫婦の協力によって形成した資産であれば財産分与の対象となります。

対象となる主な資産は、預貯金、有価証券、不動産、退職金です。返済中の住宅ローンがある場合は、それも財産分与の対象となります。そして、今回のテーマとなる公的年金も財産分与の対象です。夫婦が婚姻中に納めた厚生年金を共有財産として扱う「年金分割制度」があります。

年金分割制度とは?

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婚姻期間中の資産は、夫婦で一緒に築いたものと考えますので、年金も同様の考え方になります。つまり、「年金分割制度」では、婚姻期間中に2人が納めた年金の記録を分け合うことができるのです。

配偶者の扶養となる専業主婦(夫)は特に、離婚して自分だけの年金で生活できるか不安を感じることでしょう。また、共働きの場合も、収入によってそれぞれ受け取れる年金は異なります。しかしいずれの場合も、離婚時には、婚姻期間中の年金を分けることができるのです。

単純な折半ではない!分割のルールと、分割できる対象

ただ、年金分割は、将来受け取る年金を単純に折半できるわけではありません。実際は、婚姻期間中の年金保険料の「納付実績」を分割することになります。その納付実績をもとに、自身が納めた納付記録と合算され、将来受け取れる年金に反映されます。

年金分割できるのは厚生年金と共済年金ですので、企業に勤める会社員や公務員が対象です。国民年金は、そもそも皆が平等に加入する(義務がある)ものですので分割はできません。つまり、自営業やフリーランスは、年金分割の対象外ということになります。

そして会社員などが利用できる年金分割制度には、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。それぞれ詳細を確認していきましょう。

「合意分割」とは

お金を分ける
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合意分割とは、その名の通り、夫婦間の合意によって分割割合を決めるというものです。もし、合意が取れない場合は、当事者一方が家庭裁判所に申し立て、審判・調停を行うことによって分割します。

分割の対象となるのは、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)です。婚姻期間中の厚生年金記録の多い方から少ない方に対して分割され、分割割合は最大50%となっています。

合意がなくても1人で請求できる「3号分割」とは

3号分割とは、会社員や公務員の配偶者で扶養に入っていた人(国民年金の第3号被保険者)が対象となる制度です。こちらは、合意分割と違って双方の合意の必要はなく、1人で請求することができます。分割割合も決まっており、一律50%です。

この3号分割制度が施行された2008(平成20)年4月1日以降の婚姻期間について適用されます。もし、夫婦間で揉めていても、要件さえ満たせば無条件に受け取れるため、離婚時に切り出しにくいことをひとつ減らすことができます。

また、合意分割の請求がされる際に、そのうち3号分割の対象となる期間が含まれている時は、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされ、手続きを進められます。つまり、3号分割の対象となる期間は、一律50%の分割が行われ、それに加えて、合意分割による標準報酬の分割も並行して行われるということです。

「離婚した翌日から2年以内」の請求を

「合意分割制度」「3号分割制度」ともに、離婚した翌日から2年以内という請求可能期間が設けられています。

中には、合意分割で揉めてしまい裁判所での審判・調停が長引くケースもあるでしょう。その場合は、例外として2年を経過していても延長が可能です。反対に、離婚成立後2年以内であっても、相手方が死亡したケースでは、期限が短くなるので注意が必要です。その場合、死亡時から起算して1カ月が期限となります。

年金分割のやり方と請求の流れ

年金分割を請求する際の流れは基本的に下記のようになります。

①「年金分割のための情報通知書の請求書」の請求

年金分割の按分割合は、法律で定める範囲内で決めなければなりません。ですので、年金分割をするには、まずは分割対象期間などの情報を知ることが必要です。最寄りの年金事務所に「年金分割のための情報通知書の請求書」を提出すると郵送で受け取れます。一人で請求できるため、離婚を検討する時に先に確認することも可能です。

請求書は日本年金機構のHPからダウンロードすることもできます。

②「年金分割のための情報通知書」 の受け取り

手続きから2~3週間すると、日本年金機構から情報通知書が送られてきます。双方一緒に請求した場合はそれぞれに届き、1人で請求した場合は、離婚前なら請求者のみ、離婚後なら双方に交付されます。

③話し合いによる合意

年金分割を請求するか、またその分割の割合をどうするか、の話し合いを行います。話し合いで合意できなかった場合は、家庭裁判所への審判、または調停などの申し立てを行います。なお、3号分割のみの場合は合意の必要はありません。

④年金分割の請求・手続き

離婚後に当事者双方または一方が「標準報酬改定請求書」に公正証書など按分割合を明らかにできる書類を添付して、年金事務所または年金相談センターに提出します。

3号分割の場合は、年金分割を受ける方(第3号被保険者)が請求します。この場合は、按分割合を明らかにできる書類の提出は不要です。

⑤「標準報酬改定 通知書」の受け取り

日本年金機構から、按分割合に基づき厚生年金の標準報酬が改定された通知がそれぞれに届きます。年金分割で増えた年金は、65歳になり年金を受け取る時に合わせて支払われます。年金の繰り上げや繰り下げをするなどの取り扱いも通常の公的年金と同じです。また、相手が死亡した場合も、特段の影響はありません。

【シミュレーション】年金分割したら、専業主婦(夫)はいくらもらえる?

では、年金分割によって、いくら年金が増えるのかシミュレーションをしてみましょう。細かい計算はさておき、大まかに掴んでいただくための試算となります。

厚生年金(報酬比例部分)の計算式は、以下です。

厚生年金=平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数
(平成15年3月までの加入期間については給付乗率7.125/1000で計算する)

年金分割で増えた平均標準報酬額をもとに計算式に当てはめると、増額される年金額が分かります。

〇夫:会社員年収600万円、妻:専業主婦のケース(婚姻期間:15年)

(夫)婚姻期間中の標準報酬総額:9000万円 
(妻)婚姻期間中の標準報酬総額:0円

専業主婦家庭の場合は、3号分割が適用されますので、按分割合は50%です。
そのため、対象期間分割後の妻の標準報酬額は、

9000万円×50%=4500万円
となります。

これを、婚姻期間中の加入月数180カ月(15年×12カ月)で割って、増額される厚生年金を計算するうえで必要な平均標準報酬額を求めます。

4500万円÷180カ月=25万円…平均標準報酬額

これをもとに、最初の厚生年金の式に当てはめ年金額を計算します。

(平均標準報酬額)25万円×5.481/1000×(加入月数)180カ月=約24.6万円

よって、年金額は年額24.6万円増額することになります。
月に換算すると約2万円です。

ここでは、専業主婦の3号分割の例で試算しましたが、合意分割で夫から50%の年金記録の分割があった場合も同様に考えます。

これまでの納付記録がもとになることから、年収が多いほど、婚姻期間が長いほど分割によって受け取れる年金は増えていきます。

しかし、金額としては意外と少ないと感じる人もいるのではないでしょうか。実際に、厚生労働省「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」における「厚生年金保険における離婚等に伴う年金分割の状況 」によると、離婚による年金分割(合意分割・3号分割)によって増えた年金額は、平均で月額約3万円とのこと。

なお、同調査では、3号分割のみの場合は、月5000円ほどの増額と合意分割に比べかなり少ないようです。これは、合意分割なら婚姻期間全てが対象になるのに対し、3号分割は法律が施行された2008(平成20)年4月以降の婚姻期間が適用となることが影響しているのではないかと推測します。法律が施行された後に婚姻期間がある専業主婦(夫)は、増額金額の平均も高くなると考えることができます。

まとめ

今回は、離婚時の年金分割についてみてきました。簡単にまとめます。

年金分割で増額された年金をもらうには、そもそも年金の加入期間が10年以上という要件を満たしておく必要があります。また、年金分割は離婚したら自動的に行われるものではないため、必ず期限内に手続きを済ませるようにしましょう。

離婚と年金についてのQ&A

Q:年金分割は、お互い話し合って合意が取れれば良いのでしょうか。

A:合意だけでなく、必ず請求の手続きをしなければ年金は分割されません。年金事務所や年金相談センターに申し出ましょう。

Q:婚姻期間中の厚生年金期間はねんきん定期便でも分かりますか?

A:婚姻期間中の厚生年金期間は通常届くねんきん定期便では分かりません。情報通知書を取り寄せるのが確実です。手続きには、個人番号または基礎年金番号、戸籍謄本などが必要です。