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多子世帯の大学無償化、SNSで大ブーイング殺到のワケは?

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

多子世帯の大学無償化、SNSで大ブーイング殺到のワケは?

【画像出典元】「Cast Of Thousands/Shutterstock.com」

政府は12月7日、「3人以上の子どもがいる多子世帯について、2025年度から子どもの大学授業料などを無償化する」との方針を固めました。この政府の発表を聞いた方の多くは、「子どもが3人いれば、3人とも大学の学費が無料になる」と思ったのではないでしょうか。しかし、そうではありません。大学無償化の対象となるのはどのようなケースなのでしょうか。政府の発表に溢れかえる不満の声とともに、今回の案の問題点を詳しく見ていきましょう。

条件は「3人がそろって扶養家族」

12月11日に政府が発表した「こども未来戦略」案によると、無償化の条件は3人の子どもがそろって扶養家族であること。第1子が大学を卒業し社会人になり扶養を外れると、その時点で第2子、第3子は無償化の対象外となります。現時点で第1子が社会人で、第2子が大学生、第3子が高校生という家庭も少なくないでしょうが、この家庭は最初から無償化の対象外ということになるのです。これにSNSやニュースサイトのコメント欄では、次のような不満の声が噴出しています。

「一瞬でも喜んだ自分がバカだった。これで3人目大学に行かせてあげられると思ったのに」

「我が家のように今子どもが2人いて 3人目どうするかなって家庭にどれくらいインパクトがあるか」

「年齢の離れた兄弟ならアウト。これ一体国民の何%が対象なの?」

「完全に無償とするなら三つ子を授かれ!ってこと?」

また、政治の世界からも疑問の声が上がりました。東京都練馬区議会の岩瀬たけし議員は、この案の問題点を次のように指摘しています。

「生まれた家の子どもの数によって、無償化対象になるかが決まり、多くの場合、卒業後には扶養から外れるので長子のみが対象となってしまいます。長子については、扶養に残るとあとの子どもも無償化対象になるので、大学院進学等のインセンティブがありますが、第2子以降にはそういうインセンティブはありません。家族構成の違いによる分断が生じる恐れもあり、制度に大きな問題が。」

進学先によっては無償化対象外の可能性も

学費
【画像出典元】「stock.adobe.com/pla2na」

なお、大学授業料の「無償化」と言っても「条件つきの無償化」であることも押さえておく必要があるでしょう。無償化の対象は、授業料と入学金ですが、いずれも上限が設定されています。大学の場合、授業料免除の上限額は国立大学が約54万円、私立大学が約70万円。文部科学省令による国立大学の標準額によると、1年間の授業料は53万5,800円のため、国立大学に関しては授業料が無償化されると言えます。しかし、私立大学の全学部の平均授業料は約93万円。授業料が大幅に減免されることは事実ですが、無償化とまでは言えないでしょう。

また、進学する学校によっては無償化の対象とならない可能性がある点にも注意しなければなりません。まだ正式決定ではありませんが、直近3年度ですべての収容定員が8割未満の大学や短大、高等専門学校は無償化の対象外となる可能性があるのです。

ここで問題なのは、少子化などにより多くの地方大学が、定員割れ(入学定員充足率100%未満)に苦しんでいる点です。日本私立学校振興・共済事業団の調査によると、2023年春の入学者が定員割れした四年制の私立大の比率は53.3%(284校)に上ります。1999年度の調査開始以来、最も高い割合です。そして、定員割れの多くが規模の小さな地方大学です。定員充足率が100%を超えたのは、東京、神奈川、大阪、愛知といった3大都市圏。一方、中国(広島を除く)、四国は80%台にとどまります。

自宅から通える範囲内に「直近3年度ですべての収容定員が8割未満の大学」しかない高校生も少なくないでしょう。そういった地域に住んでいる子どもが大学に行きたい場合、「学費を全額払って地元の大学に行く」「授業料免除の対象の都市部の大学に行く」の2つの選択肢から選ぶことになります。都市部の大学に行った場合、授業料は軽減されますが、親には家賃や生活費が重くのしかかってくるでしょう。

全国大学生活協同組合連合会が行った「第58回学生生活実態調査」(2022年)によると、大学生の一人暮らしの生活費は平均約12万4,000円でした。そのうちアルバイト代の平均が月に約3万2,000円、仕送り額の平均は月に約6万8,000円。残りは奨学金というのが平均的な一人暮らし大学生の収入となります。

地元に授業料免除の対象となる大学がないため、やむなく都市部の大学に進学する子どもの親は、仕送りだけで年間約82万円かかる計算になります。家庭の経済状況が許さず、「大都市に住んでいれば大学に進学できたけれど、地方だから進学をあきらめざるを得ない」という子どもが多数出てくることは想像に難くありません。

引き続き制度の注視を

打ち合わせする人々
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前出の岩瀬議員は、今回の案について、「家族構成の違いによる分断が生じる恐れもあり」と指摘していますが、筆者はそれに加えて、住んでいる地域の違いによる分断が生じる恐れがある案だと感じます。そもそも今回の案で、「第2子、第3子を作ろう」と思う人がどれだけいるのか疑問を持たざるを得ません。個人的には、「第1子の授業料は20%減免」、「第2子は50%減免」、「第3子は80%減免」といったように子どもが多い家庭ほど、より多くの恩恵を受けられる制度の方が効果的ではないかと思いますが、読者の皆さんはいかがでしょうか。いずれにせよ、これから議論を経て最終的にどのような制度になっていくか、注意深く見ていく必要があるでしょう。