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インボイス制度は「やばい」のか?個人事業主への影響大の理由

そなえる 白浜 仁子

インボイス制度は「やばい」のか?個人事業主への影響大の理由

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インボイス制度がスタート。登録事業者になるべきか迷っているフリーランスや個人事業主の方も少なくないでしょう。ここでは、年商1000万円以下のフリーランスや個人事業主など、インボイス制度によって大きな影響を受けうる人や、税金の負担感の確認、対策についてみていきましょう。

インボイス制度の現状

インボイス制度は、2023年10月に開始されることが決まっています。そのため、当初は3月31日までにインボイスの登録をするよう、手続きを促されてきました。しかし、2022年12月末時点で法人75%、個人34%と登録が進んでいません。こうした実態を受け、円滑な導入が難しいと判断されたことから、9月30日まで受付が延長されることになりました。

インボイス制度とは

インボイス
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「インボイス」とは、適用税率、消費税額など国が定めた一定の形式を備えた請求書のことで、「適格請求書」とも言います。インボイスを発行できるのは、申し出をした登録事業者のみで、インボイスには登録番号も記載しなければなりません。消費税は2019年10月に10%へと引き上げられ、一部は軽減税率8%が適用されることになりました。消費税が複雑化していることから、正確な納税のためにこのインボイス制度の導入が決定したのです。

さて、ここで、消費税の納税について簡単に確認しておきます。消費税は、事業者が商品(モノやサービス)を提供する時に、消費者や取引先から預かる税金です。預かった消費税を事業者が納めるわけですが、その税額は、仕入などで支払った消費税を差し引けるようになっています(本則課税)。

しかし今後、差し引ける消費税は、インボイス(適格請求書)に記載されるものだけが対象となるよう厳格化されます。「インボイスによる請求書=支払った消費税の証明」ということです。インボイスがない取引の消費税は差し引くことができないため、納税額が増えてしまいます。そのため、今後多くの課税事業者は、取引先からの請求書をインボイスで受け取りたいと考えているでしょう。

年商1000万円以下の個人事業主やフリーランスへの影響大

税金アップ
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インボイスは、誰もが発行できるわけではありません。発行できるのは、消費税の課税事業者のみです。しかし、前々年の売上が1000万円以下の小規模事業者は、消費税の支払い義務がない免除事業者です。取引先から求められるなどしてインボイスを発行するには、わざわざ課税事業者になる必要があります。つまり、今後、売上が1000万円以下の小規模事業者は消費税分の負担が増えるというわけです。それでは、課税事業者になることで、どのくらい税負担が増えるのでしょうか。
以下で試算してみます。

事例)フリーライター
売上500万円(うち消費税45万円)
経費100万円(うち消費税9万円)

※消費税は、便宜的に万円単位にしています

この場合に納めなければならない消費税を前述した本則課税で計算すると、36万円となります。

(受け取り消費税)45万円-(支払い消費税)9万円=36万円

なお、前々年の売上が5000万円以下の中小事業者は、簡易課税の選択も可能です。簡易課税とは、売上にかかる消費税の40~90%(※)を仕入れ時に支払った消費税とみなすことができるというものです。(※)業種によって適用される割合は異なります。

フリーライターの場合は、50%が適用されますので、下記のように納める消費税は22.5万円で済みます。

45万円-(45万円×0.5)=22.5万円

このケースでは、本則課税より負担は減りますが、そうはいっても22.5万円の支払いは、決して小さくありません。また、個人事業主の消費税の納期限は3月31日です。確定申告で所得税を納めた直後に支払期限を迎えるということになります。

増える税負担の対応策「緩和措置」の内容とは

上記のように、インボイスが導入されることによって、資金面、事務面に大きな負荷がかかることから、いくつかの特例が設けられることになりました。

まず、免税業者は「2割特例」が活用できるようになります。これは、預かった消費税から80%を差し引いた20%分を納税すれば良いというものです。正式には、「インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置」といいます。前述のフリーランスの例における簡易課税50%と比べると、負担が軽減されていることが分かります。

2割特例が適用されるのは、免税事業者から、インボイスを発行できる課税事業者になる人が対象です。対象期間は、2023年10月1日~2026年9月30日までの3年間です。その後、控除割合が50%となり、2029年9月30日で終了します。

また、一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置として「少額特例」が設けられます。これは、税込1万円未満の仕入れは、インボイスがなくても、帳簿に記載し保存すれば仕入れ税額控除が受けられるというものです。2023年10月1日から2029年9月30日まで適用されます。

インボイス制度に登録すべきか

日本で初めて導入されるインボイスを前に、登録事業者となるか迷っている人も少なくないと思います。迷っている方は、まずはインボイスを求められる取引がどのくらいあるかを洗い出すことから始めてみると良いでしょう。

取引先が免税事業者である場合や、消費者(エンドユーザー)への販売が中心となっている場合は、免税事業者のままでも仕事への影響はないと考えられます。

取引先が課税事業者の場合、インボイスを求められるかもしれませんが、自身が免税事業者のままでも、直ぐに取引先に迷惑がかかるという訳ではありません。それは、経過措置があるからです。経過措置とは、免税事業者からの仕入れに対して支払った消費税のうち、2026年9月30日まで80%、2029年9月30日まで50%を控除できるというものです。

今決めることができない場合は、実際にインボイスが始まってからの動向を見ながら理解を深めていき、事業としてどちらを選択すべきかじっくり検討する方法もあるでしょう。

まとめ

これまで免税事業者だったフリーランスは、インボイスを選択しないことによる仕事への影響が気になることと思います。取引先が強引に契約を打ち切るというようなことは独占禁止法に抵触するため考えにくいですが、話し合いが設けられることはあるかもしれません。今後のご自身の事業の方向性と向き合いながら最善の選択をしていきましょう。