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社員を個人事業主化?変わる会社の形、変わらぬ会社の価値

経済とお金のはなし 中新 大地

社員を個人事業主化?変わる会社の形、変わらぬ会社の価値

【画像出典元】「stock.adobe.com/Hurca!」

こんにちは、ライター/ランサーズ新しい働き方LABコミュニティマネージャーの中新大地です。

多くの会社が事業と組織の再編を迫られる2020年。そこで勤務している多くの社員も、ライフスタイルの変化を迫られています。

「会社はなんのために存在するのだろう?」

今回は多くの会社の間で起こっている出来事にふれながら、フリーランスの立場から 今一度”会社の価値”について考えていきます。

電通にタニタまで、社員を個人事業主化する動き

2020年11月広告事業などを手がける業界最大手である株式会社電通は、一部の社員を個人事業主化する方針を発表し、多くの話題を呼びました。当初はコロナ禍で社員を自己責任の名のもとに、会社から引き離す施策なのではないかと批判的な声もありました。ただ、電通によればこれは「ライフシフトプラットフォーム(LIFE SHIFT PLATFORM)」という試みであり、2018年には構想があったとしています。

参考:電通、人生100年時代における個人の多様な価値発揮を支援する「ライフシフトプラットフォーム」を提唱

上記によれば、『LSPは、個人が、"一企業"ではなく"社会"に対して発揮する価値を最大化するための仕組みであり、また同時に、個人・企業・社会が柔軟につながる、これからの時代の新しい関係性を構築していくことを目指しています。』とあり、社員に対して会社という枠にとらわれず、新しい活躍の場を模索してもらうこと、そこで得られる経験により、多方面との相乗効果を生み出し、長く自立して働けるようになることを目指しているようです。

今年具体的に動き始めた電通に対して、健康機器などを販売するタニタは、2017年から「日本活性化プロジェクト」と題した試みをスタート。やはり個人が自立して働けるようになること、ひいてはそこから日本全体の収入の底上げを図るべく動き出しています。

会社によって開始時期に違いはありますが、社会全体の流れとして見た時に、個人がひとつの会社でずっと働くという”終身雇用制度”は終わりを迎えつつあります。誰もがより豊かなライフスタイルを実現するべく、働く場所や時間、従事する職業を変えることが、昔に比べればタブー視されない時代に突入しているといえるでしょう。
電通やタニタの試みは、こうした社会と時代の流れを先行しているのかもしれませんが、いずれは真似ていく会社も増えるはずです。

また、元々会社員として所属していた会社から業務を請け負うことができるので、個人事業主になってすぐに起こりがちな「最初の仕事はどこから請ければよいのだろう?」「個人事業主になったのはいいけれど、仕事ゼロの状態からスタート」といった問題も起こりにくいはず。つまり、この2社の取り組みは会社が個人の働き方改革を牽引する事例ともとれます。

私たちが活用できる会社の存在価値

社員ミーティング
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さて、話題を呼んだ電通やタニタなどの動きをふまえたところで、「会社はなんのために存在するのだろう?」という問いに対して、もうすこし踏み込んで考えていきましょう。

ちなみに今回は社会保障や仕事の有無にはあえてふれません。
今回は良くも悪くも変わりつつある会社という組織で、個人がより良い働き方や生き方を実践していくために、これから活用できる価値について紹介します。

所属しているという安心感

現在会社員の方はあまり意識したことがないかもしれませんし、もしかすると「煩わしい」くらいに思うこともあるかもしれませんが、「所属している」という安心感ほど、会社にいる価値を感じることはありません。
私のようなフリーランスを引き合いに出すとわかりやすいのですが、会社員は会社に行けば一緒に仕事をする上司、部下、同期と必ず顔を合わせます。しかし、フリーランスは自分の家に籠もったり、単発で仕事を受けたりすることも多いため、「長期間あるいは濃密な人間関係を築きにくい」働き方です。
フリーランスのなかには孤独感から、心身に支障をきたすケースも少なくありません。

会社で良好な人間関係を築けていれば、公私ともに助けを求められるという安心感が常にあります。困った時にとることができる選択肢があることは、日々の業務にも全力で取り組むための糧となります。

業界の基本が学べる、ロールモデルが近くにいる

会社は個人では獲得できない横のつながりがあります。
会社にいるだけで業界に関する情報がどんどん入ってきます。会社には培ってきたノウハウもありますから、そこで「業界の基本を学ぶ」こともできるでしょう。

また、社内を見渡せばその道を先に走る「ロールモデルを見つける」ことも可能です。もしかするとそこに自分の未来の姿を重ねることができるかもしれません。先輩社員が若手社員の助言・サポートを行う”メンター制度”を取り入れている会社も多く、 日々の業務だけでなく将来のキャリアの組み立て方、人生の悩み相談にも対応しています。
先の読めない現代社会において、これほど頼りになる存在はないでしょう。

ネームバリューを活かそう、会社は個人のアンプだ

会社にいる以上、個人は会社という看板を背負って仕事をすることになります。それを責任が重いととる人もいますが、私は自由度が高くなると考えます。

SNSなどの発達により個人の発信力が増しているとされる現代社会ですが、ビジネスを始めようと思った時のハードルは依然として高いままです。特にそれが社会課題の解決に関するもの、事業の規模が大きいものであればなおさらでしょう。つまりは信用や資金力、そしてネームバリューも個人とは雲泥の差があります。

しかし、会社が後ろ盾となればこの2つの恩恵を同時に受けることができます。会社は個人がやりたい、伝えたいと思っていることを、個人 よりも強い影響力をもって増幅させてくれる“アンプ”として機能させることができるのではないでしょうか。

個人事業主は働き方のゴールではない

パソコンに向かう男性
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時折、会社員から個人事業主になることは、とても凄いこと、あるいは個人事業主は会社員の上位互換であるかのように語る人がいますが、私はそうは思いません。
また、その逆で個人事業主を辞めて会社員に戻った人に対して、逃げの選択肢として見る人や下位互換のように語る人がいますが、やはりこれに関しても私は全く同意することができません。
もっとも、会社員から個人事業主になる場合でも、個人事業主から会社員になる場合でも、大きな決断を伴うわけですから、その勇気を否定するつもりはありません。
ただ、口を酸っぱくして言っておきたいのは、「個人事業主は会社員のゴールではない」ということです。もちろん、この逆もしかりです。

冒頭で電通とタニタが社員を個人事業主化している動きについてふれましたが、これは会社員と個人事業主の両方の良さを融合させた新しい働き方だと私は捉えています。個人事業主でありながら、この2社で得られる所属意識、教育制度、ネームバリューといったメリットを享受できるのですから、とても魅力的に映りますよね。

もちろん、純粋な会社員として働く場合もこうした価値やメリットは享受できますし、そこから個人事業主になるにしても、個人事業主から会社員に戻るとしても、この恩恵を最大限に活用すべきではないでしょうか。
会社の価値は時代の変容ととともに見えにくくなっているケースもありますが、探せばきっと見つかるはずです。

会社員として働くことに疑問や不安を感じている方も、会社と密接にかかわりながら働く個人事業主の方も、ぜひ今一度会社という存在とその価値を見定めていただければと思います。そして、これからのキャリアと人生設計に活用してください。

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