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「私でも買える!?」あなたは「スモールM&A」の可能性に賭けるか

経済とお金のはなし 竹中 英生

「私でも買える!?」あなたは「スモールM&A」の可能性に賭けるか

【画像出典元】「shutterstock.com/Scott Cullen」

業種を問わず、さまざまな分野で業務のデジタル化やAI化が加速し、企業や組織の再編が急ピッチで行われています。そして、そこで働く私たちも、急激な濁流にのみ込まれ不透明な未来へ向かう毎日に、漠然とした不安を抱えながら生きています。

そのような中、会社員として生涯を終えることに疑問を感じる人たちの間で行われている新しい起業スタイルが「スモールM&A」です。

M&Aというと、経済ニュースでたまに耳にする企業買収をイメージする方が多いと思いますが、それと比べてこのスモールM&Aは何が違うのでしょうか?

本日は、個人で行うスモールM&Aの可能性と危険性について解説していきます。

スモールM&Aとは?

握手する人たち
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そもそもM&Aとは「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略語で、企業同士の合併や買収を意味しています。スモールM&Aは言葉の通りその規模が小さいものを指すのですが、実は明確な定義があるわけではありません。

一般的には、買収価格が数百万円から数千万円で取引される規模のM&Aのことを「スモールM&A」と呼んでいます 。

通常のM&Aとの大きな違いは、通常のM&Aの場合「買い手」が企業であるのに対し、スモールM&Aの「買い手」は、おもに起業を目指す会社員などの個人である点です。

たとえば、郊外にある雰囲気の良いカフェで常連客も多くそれなりに流行っているけれど、マスターが健康上の理由などで廃業したいと思っている店を引き継ぐ場合などが、典型的なスモールM&Aといえます。

スモールM&Aは、企業を丸ごと買うM&Aと比べると用意すべき資金がそこまで必要ではなく、かつ何もないところから事業を立ち上げるリスクを抑えることができるため、堅実に少しずつ利益を積み上げていくビジネスモデルにはピッタリの起業法といえます。

スモールM&Aってどうやってやるの?

スモールM&Aの対象企業が法人の場合、株主(オーナー)が株式を所有しています。その株式をすべて購入することにより、スモールM&Aが完了します。この方式を「株式譲渡」といいます。

いっぽう、事業の一部だけが欲しい場合もあります。たとえば、A市とB市で2店舗の美容院を経営している会社から、A市の店舗だけをスモールM&Aの対象としたい場合、その店舗に関する部分(建物や機械などの資産)だけを切り取って購入し、スモールM&Aを完了させます。この方式を「事業譲渡」といいます。

スモールM&Aの対象が法人の場合であれば、ほとんどのケースがこの2つのうちのどちらかです。

また、スモールM&Aの対象が個人事業の場合は、事業譲渡と同様に、事業に必要な資産などをピックアップしてそれぞれをまとめて購入します。

スモールM&Aの対象企業の探し方

「スモールM&Aをやりたい!」と思っても、口コミや街を歩いて探す程度ではまず見つけることはできません。

実際にスモールM&Aを検討する場合、多くの人に活用されているのが、たとえばM&Aマッチングサイト最大手の「Batonz(バトンズ)」(https://batonz.jp/)です。

BatonzはM&Aでは日本最大手の株式会社日本M&Aセンターのグループ会社の一つで、スモールM&Aなどの対象となる小規模企業のM&A案件を数多く抱えています。

また、仲介手数料の安さと、外部専門家との連携による使い勝手の良により、近年実績を伸ばし続けています。

スモールM&Aを検討する場合、まずこのようなマッチングサイトに無料登録し、希望に合った案件を探していくことから始めていきます。

対象企業が見つかったら、相手企業の経営者との面談や交渉などを経て、最終契約を締結します。

スモールM&Aのメリットとデメリット

売り買いのグラフ
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次に、スモールM&Aのメリットとデメリットを整理してみます。

スモールM&Aのメリット

スモールM&Aのメリットは、初期投資と起業リスクを自分がコントロールできる範囲内に抑えることができる点にあります。

事業資金に充てることができる金額は人によって違いますが、その金額に見合った対象企業を選びやすく、既に実績があるため、起業後に売上ゼロからスタートする必要がありません。引継ぎを注意深く行えば、既存の顧客をそのまま引き継ぐことも十分に可能です。

また、景気の動向によっては思わぬ金額でM&Aを成立させることもできます。好景気であればM&Aの価格も跳ね上がってしまいますが、逆に景気が後退している局面では、投げ売りに近い価格で企業が手放されている場合もあります。

このように、しっかりとした準備を行い、買い時を間違えなければスモールM&Aによる起業を成功させる確率をぐっと上げることができます。

スモールM&Aのデメリット

いっぽうスモールM&Aのデメリットは、自分が望む案件が必ずしも自分の望むタイミングで市場に出回るかどうかが分からない点です。ご自身が「起業したい!」と思っても、スモールM&Aの対象企業としてピッタリの相手がまったく見当たらない可能性もあるため、タイミング良く見つかるかどうかは運次第ともいえます。

また、もう一つのデメリットは、相対取引によるトラブルです。通常のM&Aであれば、弁護士や公認会計士などの専門家に依頼し、対象企業の調査(デューデリジェンス)を徹底的に行い、買収後のリスクなどを洗い出します。また、契約書類の作成やリーガルチェックも完璧に行われます。

しかし、個人が主体のスモールM&Aの場合、そこまで費用を捻出できない場合が多いため、専門家や仲介業者を挟まずに対象企業との相対取引を行ってしまうことにより、契約後にさまざまなトラブルが起こる場合があります。

それ以外にも、事業計画の立案が希望的観測に基づいたものになってしまうと、M&A後に予想通りの収益が挙げられない場合があります。

スモールM&Aで失敗しないために

プランニングする女性
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それでは最後に、スモールM&Aの成功率を少しでも引き上げ、失敗しないための方法をいくつかご紹介します。

方法その① 後継者候補として現経営者から後継者教育を受ける

経営者は、会社員とは立場も役割も全く違います。スモールM&Aが成功すればいきなり経営者になることはできますが、それで上手くいく保証はありません。また、いきなりやって来た新しい経営者に、従業員や取引先、顧客などがこれまで通りの関係でいてくれるかどうかも分かりません。

ですから、いきなり会社員から経営者になるのではなく、スモールM&Aを行う前段階として現経営者に弟子入りし、後継者としてふさわしい人物になるための教育を受けながら、周囲の理解を得るための時間を作らなければなりません。

方法その② 準備期間で自分の適性を見極める

後継者教育を受けながら準備期間を設け、その期間に自分の適性を見極めなければなりません。やる前に思っていたことと、実際にやってみて感じたこととは必ず違います。その違いを踏まえた上で、ご自身に適性があるかどうかを冷静に判断します。

「適性がある!」と思えば続けて良いですが、「これは向いていない」と思ったら、M&Aから一度撤退した方が良いでしょう。

まとめ

新型コロナウイルスの影響による景気悪化は、日本だけでなく世界中に影を落としています。これを機に廃業を決めた企業の中には、バーゲン価格で売りに出ている企業も数多くみられます。

コロナ渦での景気低迷は、実はスモールM&Aにとっては最適の「買い時」ではありますが、こんな時だからこそ焦らず、着実に準備を進めていかなければなりません。

「何事も準備が8割」という言葉があります。スモールM&Aにはさまざまなリスクやデメリットもありますが、準備期間として時間をしっかりと設ければ、成功する確率を上げることは十分にできます。

あとは、事業への情熱次第です。