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ファストフードで働いて年収1000万円!?海外で出稼ぎの懸念点とは

経済とお金のはなし 竹中 英生

ファストフードで働いて年収1000万円!?海外で出稼ぎの懸念点とは

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2022年10月30日付の日経新聞によると、2021年の労働分配率(利益の中から従業員に分配される割合) は31年ぶりの低調で、円安を追い風に海外への輸出によって空前の利益を上げている多くの企業 では、2022年は分配率がさらに低下することが予想されています。

円安を背景に多くの企業が増収増益を続けた結果、法人税の税収は伸びており、また昨今の物価高の影響によって消費税の税収も伸びていることから、2022年度は空前の税収増となることがほぼ間違いないと言われています。

このような状況に反して、完全に割を食った形で取り残されているのが私たち一般消費者です。円安 やエネルギー資源高による物価高は可処分所得を縮小させ、昇給で物価高が吸収できない家庭では、既に買い控えや預貯金の取り崩しが行われています。

こういった流れとはまったく別に、この状況に早々に見切りをつけ、日本を脱出して海外で働こうとする「出稼ぎ目的の渡航」を目指す人たちが今少しずつ増えています。彼らの多くは海外に飛び出し、日本で働くよりもはるかに多い額の給料を実際に手にしています。

そこで本日は、海外で働く「出稼ぎ」に焦点を当て、その実情と今後の可能性について考えてみます。

ファストフードで働いて年収1000万円!?

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カリフォルニア州知事は、2022年9月5日、ファストフード業界で働く労働者、約50万人の労働条件を改善するための新法案(ファスト法)に署名しました。これにより、ファストフード業界の最低賃金は最大で22ドル(1ドル150円で換算すると3300円)にまで引き上げられることになり、ファストフード業界で働く労働者の賃金適正化に向けた大きな一歩を踏み出すことになりました。

これはカリフォルニア州の話ですが、もし最低時給22ドルが実現すれば、1日10時間労働での日給は3万3000円(1ドル150円換算)となり、仮に月26日間(週休1日)働けば計算上年収1000万円を超えることになります。

日本では年収1000万円が高所得者の境目として用いられていますが、この程度の金額なら、カリフォルニア州のサンタモニカあたりのファストフード店で働けば実現できてしまう時代なのです。

進む個人の海外進出

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日本人が職を求めて海外に行くようになったのは、何も今に始まったことではありません。明治時代から日本人による海外移民は積極的に行われており、1973年まではブラジルへの移住が実際に行われていました。ちなみに先日亡くなった元プロレスラーのアントニオ猪木氏も、戦後ブラジル移民の一人です。

最近では、ワーキングホリデー制度を利用して語学の勉強と海外での労働を行う日本人が増えており、稼ぐことをメインで考えている人の場合、為替差の大きいアメリカやオーストラリア、ニュージーランドなどがおもな渡航先として選択されています。これらの国では普通に働くだけで月収40~60万円程度もらえるため、ワーキングホリデー後には現地で就活して働く人も増えています。

海外で働けばお金持ちになれる?

日本円に換算して給料が割高になるアメリカやオーストラリア、スイスなどで働けば、日本円に換算した年収が増えることは間違いありません。これは、さきほど述べたファストフード業界の、最低賃金の例からも明らかです。

しかし、海外で働くということは海外で生活するわけですから、円換算した生活費も同時に増えていくことになります。したがって、例えば年収が倍になるのであれば、支出もおそらく倍近くになるはずです。

仮に、「どの国で働いても年収の2割を貯蓄に回す」ということが可能であれば、貯蓄分の2割だけは、円との為替差によって日本で働くよりも(円換算した場合)高額な貯蓄が可能になるでしょう。ただし、日本のように少ない負担で国民皆保険制度が導入されている国はありませんから、病気になった場合は支出が一気に増えます。

もちろん民間の保険に加入していれば問題ありませんが、そのためには高額な保険料の支払いが必要となります。また、年金制度も国によって違うため、老後のプランニングまで含めて考えると必ずしも海外で働くことが良いとは言い切れません。

理想的なハイブリッド型の問題点

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「海外の企業に就職して現地通貨で現地基準の給料をもらい、生活は生活費の安い日本で」という組み合わせがあれば最高なのですが、さすがにこのように都合の良い働き方は大抵の場合できません。

しかし、一部の業種では、「現地価格・現地通貨での収入」と「安い日本での生活」の理想的なハイブリッドタイプの組み合わせが実現しつつあります。

デザインや設計、プログラミングのようにデータのやり取りが主となる業種であれば、ZOOMでの打ち合わせやメールでのやり取りさえできれば、世界中どこに住んでいても問題ありません。インターネットのインフラさえ整備されている場所であれば、沖縄の離島で仕事をすることも十分に可能です。

ただし、このように理想的とも言える働き方にも、いくつかの問題点があります。

「現地企業に雇用される」のではなく、実際にはフリーランスに近い形で契約する下請業者となるため、安定した雇用やベースアップなどは望めません。また、立場的にはほぼフリーランスですから、夏・冬の賞与などを望むのは難しいでしょう。

加えて、円安によるメリットも、いったん円高に振れてしまえば、すべてがあっという間に吹き飛んでしまいます。現地で生活をしているのであれば円高になっても関係ありませんが、理想的なハイブリッドタイプを選んだばかりに円高によって大幅な損失を被ることになってしまいます。

終わりに

「一生円安」という前提であれば、海外に出稼ぎに行き、為替差益によって(円換算した)貯金を一気に増やすことも不可能ではありません。しかし、現地通貨で稼いだお金を最終的に日本円に換算するのであれば、残念ながら出稼ぎが長期的な資産形成に必ずしも向いているとは言えません。

なぜなら、日本円は変動相場制で、いつまた円高に振れるか分からないからです。もしまた1ドル80円を切るような円高になれば、状況は今と逆になり、せっかく稼いだお金が為替差損で目減りしてしまうことになりかねません。 

出稼ぎだけではこのようなリスクをヘッジするのが難しいため、「長期的な資産形成」という点では、問題がまだまだ多いのではないかと思います。