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24年ぶりの円買い介入、その理由と止まらぬ円安の行方は

経済とお金のはなし 山下 耕太郎

24年ぶりの円買い介入、その理由と止まらぬ円安の行方は

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9月22日、政府と日銀は1998年6月以来の円買い・ドル売り介入を行いました。なぜこの時期に為替介入をしたのでしょうか、そして円安トレンドを止めることはできるのかについて考察します。

為替介入とは

為替介入の仕組み(米ドルと円)

為替介入とは、為替相場に影響を与えるために、通貨当局が外国為替市場で通貨間の売買を行うことで、正式には「外国為替平衡操作」といいます。為替介入の目的は、為替レートの急激な変動を抑え、安定させることです。

日本が単独で介入することを「単独介入」、欧米など他国と共同で介入することを「協調介入」といいます。協調介入はすべての国に理解されている場合に行われるものです。よく知られているのは、1985年のプラザ合意に対する協調介入です。

為替介入は、通貨の売買を行うため、円やドルなどの資金が必要となります。日本の場合、為替介入には、財務省所管の外国為替資金特別会計(外為特会)の資金が使われます。

例えば、急激な円高で、日銀が円を売ってドルを買うという為替介入を行う場合、政府は短期証券を発行して円資金を調達し、それを売ってドルを買うのです。

逆に、急激な円安により、日銀が外国為替市場でドル売り円買い介入を行う場合は、外国為替特別委員会が保有するドル資金を売却して円を購入するのです。

為替介入の種類

為替レートの変動
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為替介入の種類は、主に以下の3つです。

口先介入

実際に為替介入を行うわけではないが、政府や日銀の役人が介入姿勢を示唆することで為替水準を誘導することを「口先介入」といいます。

ただし、為替の水準については発言しないという暗黙のルールがあります。ですから、為替レートの動きのスピードに関してだけ発言します。

単独介入

単独介入とは、外国為替市場(為替レート)の行き過ぎを是正し、市場の変動を抑制したり、一方向への市場の暴走を抑えたりするなど、市場を均衡ある水準に導くことを目的として、一国(日本など)の通貨当局のみが行う外国為替介入を指します。今回は、この単独介入に該当します。

協調介入

協調介入とは、同一通貨の買い支えなど共通の目的を持って、複数の国の通貨当局が協調し、外国為替市場に同時に介入することです。

世界的には、1985年のプラザ合意後のドル売り協調介入、1987年のルーブル合意後のドル買い協調介入が代表的な例です。

一般に、協調介入は複数国(2カ国以上)が同時に行うため、一国が単独で行う「単独介入」よりも効果的です。ただ、各国の思惑が異なることも多く、なかなか歩調を合わせられないのが現実で、市場もそれを見透かしていることが多く、協調介入でも為替相場の流れを変えることは容易ではありません。

24年ぶりの円買い介入

政府と日銀は9月22日、円買い・ドル売り の為替介入を決定しました。日銀は金融政策決定会合で大規模な金融緩和の継続を決め、利上げを進める米国との金融政策の違いが円安・ドル高に拍車をかけたからです。

ただ、今回は諸外国との協調介入ではなく、単独介入でした。これで円安の流れが止まったかどうかは難しいところです。

過去には、不良債権問題などで日本経済が低迷していた1990年代後半も、円買い介入が行われました。1997年11~12月にかけて計 8回、約1.1兆円規模、1998年4月に計2回約2.8兆円規模の単独介入を行いましたが、結果的に円安の流れは止められず、1998年6月、1ドル=140円を超える円安になりました。

そして、この流れを止めようと、1998年6月に日米が協調介入に踏み切ったのです。その後米国の利下げなどの要因もあり、ドル円相場は110円台の円高になりました。 

一時145円台後半まで進んだ円安は、今回の介入後に5円程度円高になりましたが、その後は144円台に戻しており、大きな円安の流れは止まっていません。

日本の単独介入では影響は限定的か

日本円と光と影
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財務省によると、9月の介入額 (8月30日から9月28日まで実施)は2兆8,384億円。これがすべて9月22日の単独介入分だとすると、1日の円買い介入額としては史上最大となります。そして、外貨準備高は8月末で1兆2,900億ドル(約185兆円)なので、まだ介入の余地は十分あるといえるでしょう。

ただ、外貨準備のほとんどは外貨建ての有価証券(米国債が多い)で運用されています。日本経済新聞による と、米国が外貨準備のすべてをすぐに使う行動は容認しないと考えられることから、介入に使える資金は20兆円程度という見方もあります。

また、円買い介入のために日本が米国債を売却すると、米国の金利上昇圧力がかかるので、米国当局と摩擦が生じる可能性が高くなってしまいます。

現在の米国の長期金利の乱高下は、世界の株価の不安定な動きの背景になっています。そんな時に日本が突然、大量の米国債を売れば、今回の日本の介入に「理解」を示した米国も態度を変えるかもしれません。

以上のことから、日本単独での介入には限界があり、円安の流れを変えることはかなり難しいということが分かります。今後は、米国など諸外国との協調介入があるのかどうかに注目です。