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20年ぶりの円安、Z世代は初めての円安とどう向き合うべきか

山崎俊輔のライフプラン3.0時代を生きるルール 山崎 俊輔

20年ぶりの円安、Z世代は初めての円安とどう向き合うべきか

急激な円安、Z世代は生まれて初めて経験する世界

今年は急激な円安局面となっています。2022年がスタートした時、「1ドル=115円」くらいの水準にあった円とドルのレートは、一気に変化し、執筆時点(2022年7月29日現在)では「1ドル=135円」のような数字になっています。1円動くのに1カ月もかかることもしばしばであることを考えれば、20%くらい為替が一気に動くのは珍しいことです。

日本では「1ドル=○円」のようにドルのほうを固定して為替レートを示すのが基本です。この「円」の数字が多くなれば円安、少なくなれば円高ということになります。20年ほど前は「1ドル=90円」のように100円を切っている状態にあり、ざっくりと「1ドル=100円」くらいで考えておけばいい時代もありました。

ライフプラン1.0世代は「1ドル=360円」で為替が固定されていた時代から、プラザ合意を経て一気に円高が進む時代を過ごしてきました。時間はかかったものの、大きな変化が続いてきました。この多くは日本の国力の高まりが反映されてきたものです。

しかし、ライフプラン3.0世代にとってはこうした急激な為替の変動は初めてのことだと思います。1ドルが100円を割っていた円高の時代はもちろん、20年ぶりとも報じられる円安の時代も生まれて初めて経験する世界です。

ライフプラン3.0世代はこうした円安(あるいは円高)のような変化をどう捉えていくべきでしょうか。

私たちの当面の課題は「円安値上げ」

今、私たちが気にしたいのはやはり、「円安値上げ」でしょう。アメリカで100ドルで販売されている商品が「1ドル=110円」なら単純計算で日本円で11,000円で販売されることになります(実際には輸送コストなどもかかるから割高になってもおかしくない)。

これが円安になって「1ドル=135円」となれば、商品価格は13,500円となってもおかしくありません。日本からすればまったく同じモノの値段が、為替の変動だけで値上げされるわけです。

数円程度の為替変化で小刻みに値上げ・値下げするのは面倒ですし不安定ですから、企業はできるだけ価格を安定化させますが、それでも今回のような急激な変動には耐えきれません。

先日、iPhoneの大幅値上げが話題となりました。19%値上げの商品もあったのですが、そのほとんどは円安の影響で説明できます。

言い換えれば、20%くらいの値上げがこれから起きてもおかしくないということです。日本は工業原料から食料まで多くの品目で輸入に頼っています。もともと海外では原材料の値上げが続いていますから、値上げされてもおかしくないところ、さらにダブルパンチのように円安が起きているわけです。

食パン(小麦製品)のように、すでに10%以上値上げされた商品が増え始めています。日々の買い物にもじわじわ影響が出始めています。

家計簿アプリを紹介したことがありますが、家計の見える化を図って、「何に、どれくらい」お金がかかっているのかを把握していきましょう。円安がすべて価格に反映されたとしたら、いつもと同じ生活をしているだけで月に1万円以上赤字になってもおかしくないインパクトがあります。

国内で生産されている食品であっても、パッケージ(プラスチック容器など)、輸送(ガソリン代)、電気代やガス代などの高騰の影響を受け、値上げと無関係ではありません。

ムダを削る節約の意識を高めて、円安時代に向き合ってみてください。

円安であることと、外国に投資するべきかどうかは分けて考えてみよう

次に考えてみたいのは「円安を逆手に取る方法はないのか」ということです。あなたの会社がもし、海外売上比率の高い企業であったなら、今年や来年は好決算となりボーナスも増えるかもしれません。円安の影響で、同じ1ドルの売り上げが日本円に持ち帰ってみたら20%増えることになるからです。

もちろん海外での売り上げは同じことなのですが、日本では大きく儲かったように見えるのも、円安の不思議な側面です。

ところがこれを個人の資産運用に持ち込む場合は注意が必要です。「円安だから、外国への投資を考えたほうがいい」というような情報発信やセミナーが増えてきていますが、安易に応じることはおすすめしません。

確かに日本と異なる経済成長率を示す外国への投資を行うことは分散投資の観点からも一理あります。国の年金運用でも、資産の半分、100兆円くらいは海外へ投資をしています。

「すでに」海外に投資をしていた人たちは、円安の影響で投資資金が大きく増えた人もいます。円安が20%ならその分、円換算した時価が増えているわけです。

一方で、外国の株価が調整局面に入ったことで、値下がりしている人もいます。円安のプラスと、株価下落のマイナスが相殺しているような状態です。

また、今が急激に円安局面に入っているということは、円高に戻ってくる可能性もあります。20%進んだ円安が半分戻ったとすれば、投資元本が含み損を抱える可能性もあります。

外国も投資対象として考えることは問題ありませんが、短期的に円安で儲けようと考えるのではなく、中長期的に外国の経済成長を自分のリターンにするのだと考えてみてください。

為替そのものは投資対象にしなくていい

ところで、「為替そのもの」はライフプラン3.0世代にとって簡単に取り扱うことができるようになりました。FX(外国為替証拠金取引)のアプリをインストールし、簡単な手続きをするだけで口座が開設でき、何百万円ものドルをスマホひとつで売買できます。

ライフプラン1.0および2.0世代の時代には「外貨預金」という方法くらいしかなく、「片道1円」くらいの手数料がかかりました。1ドル=100円とすれば、101円払って1ドルの定期預金を買い、円に戻すときに利息のついた105円(利率が5%だったとして)を円に戻すとき1円引かれて104円分が残る、という感じです。FXの場合、こうした手数料は驚くほど低くなっています(通常、売買手数料を設定せず、取引レートの差(スプレッド)という形で負担する)。

また、FXではレバレッジという手法が標準的で、たとえば100万円の入金で2,500万円相当のドルを売買することができます。2,500万円相当のドルが円安に振れたことで2,600万円相当の価値に変われば、元手100万円で100万円を稼いだことになります(もちろん、逆に触れた場合は、100万円はすべてなくなる)。

円安局面のこの時期、多くの個人が為替相場に手を出しているようです。為替の取引自体は不法ではありませんので、個人が行うことも問題はありません。

しかし、個人が円安局面で為替取引をする必要があるのか、という問いについては、無理に取引する必要はない、と回答したいと思います。

まず、為替取引をすると相当の時間を割く必要があります。仕事中に急激な変動があって業務に手がつかなくなってはいけません。夜に海外の経済統計の発表があって為替が急変動し始めたのでトレードしていたら睡眠時間を削ってしまうというのもよくないことです。

メンタル的にも大きなストレスを抱えます。うまくいっているときはいいのですが、あなたの予想に反した為替推移となって含み損を拡大し続けるのを見続けるのは辛いことです。何度かうまくいかない売買を行ってしまうとプレッシャーはより高まり、冷静な売買ができなくなります。負けを取り戻そうと無茶な冒険をしてさらに損失拡大を広げる人もいます。

あまりにも短期の見立てでレバレットをかける勝負は、「できる」からといって無理にやる必要はありません。FXは「やらない」という選択もあるのです。

なお、為替はあくまで交換レートであることに注意しましょう。為替を持ち続けることで何かが成長するわけではないのです。「外国の通貨」は100ドル札はいつまでたっても100ドル札です。しかし「外国の企業」に投資をすれば、企業が成長して価値が高まることが期待できます。

外国の企業に投資をすることは、為替を介して取引することです。為替のリスクを取るのはそれだけで十分ではないでしょうか。

国力の差論、日本は劣っている論にはあまり引きずられないように

ところで、こういう時期は「日本はダメだ論」のロジックとして円安を用いる人が増えてきます。

「為替は国力を示すバロメーターであるから、日本はもはや30年前の国力に衰えたと考えるべきだ」とか「日本の賃金水準はもはや先進国最下位どころか、新興国にも負けている」のように円安状況を踏まえて、声高に主張する人がいます。

こういうロジックを述べる人が「ドル換算ベース」での数字を用いると、今までよりも強烈に日本がマイナスである印象を与えることができます。

何せ、「1ドル=110円」が「1ドル=130円」になったというそれだけで、日本円の価値が20%近く下がるのですから、日本だけが大きく低下します。

今回の円安は、海外はインフレが急激に進んでおり、国が政策金利を一気に引き上げ経済の過熱を引き締める必要がある一方で、日本国内では超低金利を政策として継続していることにも一因があります。

それぞれの国にはそれぞれのアプローチがありますし、わが国にも諸外国に負けない技術がたくさんあります。たとえばスマートフォンなどの精密機器を日本の技術なしに作ることはまだ難しいでしょう。

積極的に海外に事業を拡大している日本企業もたくさんあります。海外売上比率が半分を超える企業もたくさんあり、その前提となっているのは日本企業の技術力や製品のクオリティの高さです。

もちろん日本社会には多くの問題、課題があるとはいえ、それはひとつひとつ改善されていっています。ライフプラン3.0世代の皆さんは、自信を持って働いて欲しいと思います。円安だからといって、下を向く必要はないのです。

※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。