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離婚・別居に伴う「婚姻費用」相手の年収400万円ならいくら請求できる?

ためる 内山 貴博

離婚・別居に伴う「婚姻費用」相手の年収400万円ならいくら請求できる?

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今回のテーマは離婚とお金です。お互いのお金の使い方や経済的価値観の違いなど、お金が原因で離婚に至るケースがあります。しかし、いざ離婚となると、これまたお金の問題が伴います。

慰謝料、養育費についてはよく聞くこともあると思いますが、今回は「婚姻費用」について取り上げます。婚姻費用とはどんなもので、養育費と何が違うのか?また婚姻費用はいくら払うものなのか、いつまで払うものなのかなど、気になる点を1つ1つ紹介していきます。

婚姻費用とは?養育費と何が違うの?

結婚して夫婦になると、生活にかかる費用を2人で負担します。それを「婚姻費用」といいます。食費、光熱費から子育てにかかる費用など、夫婦のどちらかが、または協力して支払っていると思います。

この婚姻費用は民法に定めがあり、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」(760条)となっています。

つまり、どちらか一方が負担するとか、負担割合は平等であるといった考えではなく、資産や収入などの事情をくみ取った上で分担すべきという考え方です。例えば、夫が正社員で妻が専業主婦という夫婦の場合、かかる費用の大部分は夫が担うべきだ、と解釈できます。ではなぜ婚姻費用と離婚が関係あるのでしょうか?

子供のいる夫婦が離婚した場合、子育て費用として支払うのは「養育費」です。子供の親権を母親が持つことになった場合、父親が養育費を払うことになります。一方、婚姻費用は子育て費用も含めた生活費全般を指します。そして婚姻費用は離婚が成立するまでの期間が支払いの対象となるのです。

離婚が成立するまで長く時間がかかるケースもありますし、最終的に離婚はせずとも別居し、別々の生活を送ることも考えられます。このように離婚成立までの別居期間にかかる生活費全般 が「婚姻費用」となるため、この費用に関しての話し合いが必要となってくるのです。

婚姻費用は基本的に「収入が多い方」が支払う

財産を奪い合う
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婚姻費用は双方の話し合いによって決めることになりますが、通常はいわゆる経済力がある方が支払うのが一般的です。ただし、別居の理由が婚姻費用を受け取る側にあった場合はやや異なります。

例えば夫は会社員で妻は専業主婦という夫婦が、妻の不倫が原因で別居に至った場合に、経済力のある夫が妻に婚姻費用を払うというのは夫からすると納得しがたいですよね。こういったことも含め、婚姻費用を誰が払うのか、払う必要があるのか、などの話し合いが行われることになります。

あとから「婚姻費用をもらっていない」、「払いたくない」など揉め事にならないように弁護士等に依頼して合意書を公正証書で作成することもできます。

もちろん離婚が視野に入っている夫婦で、婚姻費用の話し合いがスムーズに進まないケースもあります。その際は家庭裁判所に婚姻費用分担請求の調停または審判を申し立てることができます。

別居開始と同時に婚姻費用の話し合いを

離婚すべき決定的要因があり、夫婦(家族)関係の修復が困難となり、離婚に向けて協議を開始したとします。しかし、別居して数カ月経過するものの正式な離婚には至らない。そんな最中に「婚姻費用」があることを知り、相手方に請求しようとした場合、請求期間はいつまで遡れるのでしょうか?

「過去分」の考え方としては、「別居を始めた時など婚姻費用の分担の必要が生じたとき」と捉えることができます。ただし、何らかの請求や手続きを行っていなければ、相手方も「支払わなければならない」ことさえも認識していないのです。よって、「婚姻費用の支払いを請求した時」からが支払い対象になるのが、実務的な見解のようです。

婚姻費用については様々な判例があるため、「別居を始めた時」まで遡って請求できる場合もあるようですが、確実に婚姻費用を受け取るためには、別居開始と同時に相手方と婚姻費用の話し合いをする、または専門家に相談をして手続きを行っておく方がよさそうです。

なお、婚姻費用は離婚成立時まで支払われることになります。婚姻費用が満足に払われていない場合はお互いの財産を分ける財産分与の際にその点が考慮されることもあります。もちろん、離婚を視野に別居をしていたものの、もう一度夫婦関係(家族関係)をやり直すとなった場合も婚姻費用の支払いは終了します。

支払い義務者が年収400万円なら婚姻費用の平均は6~8万円

悲しそうな顔でコインを見つめる少年
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婚姻費用の位置づけが分かってきたところで、気になるのが「いくらぐらいもらえるのか?」ということです。家庭裁判所に「算定表」があるため、これが1つの目安となりますが、最終的には当事者の状況を鑑みて決定されます。ケースバイケースというところですが、今回はその算定表から金額を紹介します。

婚姻費用を支払う側を「義務者」、婚姻費用を受ける側を「権利者」といいます。それぞれの年収に応じて金額が異なりますが、今回は受ける側の権利者が専業主婦等で年収0円のケースを紹介します。なお、「養育費」も同様の算定表があるため、合わせて掲載しています。

養育費は子供を育てる費用であるため、夫婦のみの場合は養育費は対象となりません。また婚姻費用は通例、月額での支払いが必要です。義務者の年収が600万円である場合、毎月の負担は10万円程度のようです。義務者にとっては大きい金額と感じるかもしれませんが、権利者が別居して1人で生計を立てることを考えると決して大きな金額ではありません。一般的に算定表よりも金額が大きくなることが多いと言われています。

次に義務教育中の子供が1人いる場合を見てみましょう。夫婦のみの時と比べ額が大きくなります。また婚姻費用には教育関連支出なども含まれるため、養育費よりも婚姻費用が高くなります。義務者の年収が高く1000万円の場合、婚姻費用は20万円ほど。離婚成立までとはいえ、かなりの金額ですね。

最後に義務教育中の子供が2人いる場合です。婚姻費用はそれほど変わりません。公立の学校であれば1人か2人の教育費の差はそれほど大きくないという見解なのかもしれません。また生活費、例えば光熱費や食費は、子供が2人だから単純に2倍というわけではありませんから、それほど差がないのかもしれません。

一方、養育費は離婚成立後、子供達それぞれが高校や大学まで卒業することを前提としています。したがって、子供それぞれに大きな学費がかかっていくため、1人と2人ではかなりの差が生じます。そういった理由もあり、子供1人の時より金額が大きくなっています。

その他子供の数、年齢層など様々なケースを想定した算定表は裁判所のホームページで確認することができます。

まとめ

今回は「婚姻費用」について見てきました。

夫婦のことは夫婦にしか分かりませんが、1つのボタンの掛け違いが離婚につながるケースもあれば、これといった決定的な要因はないものの、長きにわたる婚姻生活で様々な思いが蓄積し、熟年離婚に至るというケースもあります。離婚や別居に至っていなくても一度は感情的になり「もう離婚だ」と思ったことがある人も少なくないかもしれません。

離婚自体が悪いわけではありません。むしろ、特に近年では前向きな選択肢の1つとして捉える風潮にもあります。ただし、多くの人が「結婚より離婚の方が大変」と口にするように、離婚をするには様々な手続きも必要で、また今回紹介したように金銭的な問題も大きくのしかかってきます。

慰謝料や養育費などに目が向きがちですが、婚姻費用についてもしっかりと認識しておきたいですね。特に権利者(受け取る側)になる場合は一定の知識を有して、早めに手続きをすることが大切です。

婚姻費用についてのQ&A

Q.妻が婚姻費用の権利者ですが、離婚成立まで実家で生活をすることになりました。この場合は婚姻費用に影響しますか?

A.実家での住居に関しては親(実家)からの贈与とみなされるため、婚姻費用の分担額には影響しないという考え方があります。とはいえ、義務者からすると相手に住居費が生じていないという事実がありながらそれを考慮せず婚姻費用を払うのは納得できないため協議の対象になることも多いようです。

Q.自営業者が婚姻費用の義務者の場合、収入はどのように算定されますか?

A.自営業者は確定申告書で所得金額を把握することができます。ただし、その所得は減価償却費や青色申告特別控除など、実際にその年に支出が伴っていないものの税務上経費とできるものがあります。そういったものを加算して所得を算定するのが一般的です。