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ついに1ドル137円台の円安、24年前と違う現在の深刻さとは

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

ついに1ドル137円台の円安、24年前と違う現在の深刻さとは

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アメリカやヨーロッパの政策金利の差から生じた、円安傾向が止まりません。6月29日には一時、1ドル=137円台と1998年9月以来、24年ぶりの円安水準となりました。アメリカの中央銀行にあたる、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を上げた一方で、日本銀行は規制緩和を継続。この日米間の政策金利の差から、円を売ってドルを買う動きが強まったことで、昨年来、続いていた円安傾向に拍車がかかった格好になりました。

円安は良いことなの?悪いことなの?

「円安ドル高」と聞いて、どういうイメージを持つでしょうか。結局、円安ドル高が日本にとって良いことなのか悪いことなのかよく分からないという方も多いと思います。それもそのはずで、円安ドル高が日本にとって良いことなのか悪いことなのかの判断は、専門家の間でも分かれていることなのです。

ただ、このところ特に、悪いイメージで報じられていることが多いため、何となく円安ドル高は日本にとって悪いことだと思っている方も多いのではないでしょうか。そこで、まずは、円安ドル高のデメリットを見ていきましょう。

円安ドル高の一番のデメリットは、食料品の価格が上がりやすいことです。日本の食糧自給率は年々下がり続けて、2020年のカロリーベースでの食糧自給率は、37%に過ぎません。日本では多くの食料を輸入に頼っている状況にありますが、円の価値が落ちれば食料品の価格が上がり、購買力も落ちます。

例えば、「1ドル=100円」の場合の1万ドルは100万円ですが、「1ドル=130円」だと1万ドルは130万円です。輸入品を買い付けるのに、それまでより余計にお金を支払わなければなりません。また、エネルギーの決済に使われるのはドルであるため、エネルギー購入価格も上がります。そうすると、電気代やガソリン価格も高騰します。以上を踏まえると、円安ドル高には、家計の財布に直結するようなデメリットがあることは事実です。

また海外製品の値段も上がります。6月7日に、Appleは「MacBook Air」の新作を発表しました。価格は税抜きで1199ドルから。日本での価格は16万4800円からで、税抜きの場合の為替レートは「1ドル=約125円」が適用されています。もし、「1ドル=100円」だった場合、日本での販売価格は11万9900円ほどになります。同じ製品であるにも関わらず、為替によって、4万円以上の差が出てしまうわけです。さらに、7月1日にはiPhoneやiPadの値上げも発表されました。

また、海外留学に行くことも金銭的に難しくなるでしょう。例えば留学費用で100万円をためていた場合、「1ドル=100円」であれば、1万ドルに交換できます。しかし、「1ドル=130円」だと、約7400ドルに目減りしてしまうのです。

こうして並べてみると、円安ドル高はデメリットしかないように思えますが、実はメリットもあります。そのため、多くの専門家も、一概に円安ドル高が悪いと言うことができないのです。

円安のメリットとは

円高と円安のメリットとデメリット
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円安ドル高の一番のメリットは、円換算した時の輸出企業の利益の増加です。トヨタ自動車、三菱商事、三井物産、日立製作所、日本製鉄。日本を代表する大企業ですが、これらの企業はいずれも、今年3月期決算で純利益が過去最高を記録しています。好調の理由はさまざまですが、円安ドル高もそのうちの一つです。また、東京株式市場に上場している企業は輸出企業が多いことから、円安が市場全体の株高につながる可能性があります。

さらに、新型コロナの影響で外国人観光客を制限している状況にはありますが、円安の方が外国人観光客の日本滞在コストを抑えられます。外国人観光客の制限が撤廃された時、多くの外国人観光客が訪れ、観光地に莫大な利益をもたらせる可能性もあるでしょう。

中には、円安は日本経済にプラスになると考える方もいるのではないでしょうか。実際、10年ほど前までは、そうした論調が多数派を占めていました。「円安になれば、輸出企業が潤って、その利益が国内に循環される」という意見を目にしたことがある方も多いと思います。

24年前の円安とは違う点

生活用品の値上げ
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もちろん、そうした側面は今でもあるのですが、以前と比べるとそのメリットが小さくなってきたのも事実です。それは、国内産業の形が以前と変化していることに理由があります。24年前に比べて、国内に生産拠点を置いている企業は少なくなっています。海外の生産拠点から海外へ直接輸出しているという企業が過去の円安時より増えているのです。

その結果、円安ドル高の大きなメリット(円換算した時の輸出企業の利益の増加)を受けられる企業は、限定的になりました。もちろん、この機会に生産拠点を海外から日本に移す動きも一部には見られていますが、すぐに生産拠点を移すことは簡単にはできません。

加えて、もうひとつの24年前と違う点に、足元での物価高があります。24年前は、証券会社、銀行の経営破綻が相次ぎ不況ではあったものの、物価高ではありませんでした。しかし、現在、毎日のように商品値上げのニュースが流れ、エネルギーを中心に物価は上がり続けています。そのような中、円安ドル高がさらに輪をかけているといった状況にあります。

インフレは、日本だけに限ったものではなく、世界各国がインフレに陥っています。そうした中、通貨の流通量を抑えてインフレを抑制するため各国が取っている対策が、政策金利の引き上げです。

そう聞くと、「日本も政策金利を引き上げればいいのでは?」と思う方もいるでしょうが、政策金利を引き上げるタイミングは景気が過熱しているときです。日本は現在、決して景気が良いとは言えず、むしろ不況だと言えます。そんな中、政策金利を上げると、借金をしている企業の返済額は膨れあがり、多くの企業が経営破綻する恐れがあります。

個人でも、住宅ローンの金利が上がるため、返済に窮する人も出てくるでしょう。景気が一気に悪くなる可能性があるため、今の日本ではなかなか政策金利の引き上げができません。

円安ドル高は日本単独でどうにかできるものではありません。世界の状況が落ち着くまで、いつもは2つ買っていた商品を1つにするなど、地道に節約していくほかないのかもしれません。