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自営業夫と会社員妻、子供の扶養はどっちが有利?

FPに聞きたいお金のこと 内山 貴博

自営業夫と会社員妻、子供の扶養はどっちが有利?

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今回の「FPに聞きたいお金のこと」は、子供の扶養に関するご相談です。自営業と会社員の共働き夫婦の場合だと、子供を夫婦どちらの扶養に入れるべきか悩む50代女性Tさん。個人事業主と会社員の妻では、どうすれば税金の負担を少しでも軽くできるのか、ポイントや注意点を抑えていきましょう。

50代女性共働きTさんの相談

〈50代共働きTさんの相談内容〉
夫は自営業、私は会社員で今までは子供3人を私の扶養に入れていました。しかし、夫の年収が増えたので夫が子供を扶養に入れたいといっています。子供の扶養を妻から夫に変更した場合、子供の保険証は国民健康保険証になってしまうのでしょうか? 子供は22歳、19歳、17歳です。上2人は大学生で、長子は次の春から大学院に進学予定です。
(Tさん・女性50代) 

社会保険の被扶養者の概念(130万円基準)とは

今回の相談は多くの方が疑問に感じていることです。近年、共働き夫婦が増えており、養っている子供や親を夫婦どちら側の扶養にするか?どうすれば税金等の負担を軽減することができるか?ということに関心はあるものの、年収103万や130万円の壁など、扶養控除の手続きや制度が分かりにくいこともあり、結局何もしていないという人も多いと思います。

今回のTさんの相談を通して扶養の位置づけなどを確認しましょう。
なお、扶養してもらう人(今回の場合は3人の子供)を「被扶養者」といいます。

まず、私たちが「健康保険」と呼んでいる制度は厳密にいうと「医療保険制度」であり、主に自営業者を対象とした制度を「国民健康保険」、会社員や公務員を対象にした制度を「健康保険」といい、大きく2つに分けられます。

今回は、Tさんが会社員なので「健康保険」に加入し、子供3人を「被扶養者」としているようですね。では「被扶養者」となれる要件をここで確認します。

<被扶養者の要件>

 国民健康保険

 (自営業)

被扶養者という概念がない

健康保険

対象者の年間収入が130万円未満であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満の者は被扶養者となる。

※健康保険の被扶養者については、その他細かい条件がありますが、今回は3人の学生がアルバイトをしているという一般的なケースを想定し、詳細は割愛しています。


上記から分かりますように、国民健康保険(自営業)は被扶養者という概念がありません。簡潔にお伝えしますと、家族が増えるほど保険料が上がる仕組みなのです。家族の人数や家族の所得が保険料に影響します。

一方、健康保険(会社員)は上記のように「年収130万円未満」といった条件を満たせば「被扶養者」となります。今回の場合、3人のお子さんが基準を満たせばいいのです。健康保険制度の場合、被扶養者が何人いても保険料負担は変わりません。言うなればお子さん3人分の保険料は無料なのです。

医療保険制度上は妻の扶養にしておく方が有利だと思います。

社会保険と税制における扶養の違い

仲の良さそうな家族
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合わせてポイントとなるのが税金です。家族を扶養している場合、年齢や人数によって、所得税や住民税の計算上、一定の控除額があるため、その分税金の負担が軽減されるのです。これを「扶養控除」といいます。


<扶養控除>

6親等内の血族もしくは3親等内の姻族(配偶者は扶養親族には該当せず、別途「配偶者」として扱います)申告者と生計を同じにしている所得金額が38万円以下(収入が給与のみの場合は、給与の額面が103万円以下)の者

 

控除額

16歳未満

0円

16歳以上19歳未満

38万円

19歳以上23歳未満

63万円

23歳以上

38万円

※70歳以上のケースなど今回は割愛しています。

Tさんのお子さんは今後、長子が大学院に入学するということで、それぞれ年齢を1つ加えると、23歳・20歳・18歳となります。上の表にあてはめると38万+63万+38万=139万円の扶養控除(所得控除)を受けることができます。

この所得控除により、所得の金額を小さくすることができます。日本の所得税率は「超過累進税率」という制度で、所得が多くなればなるほど、超過した分に対して所得税率が5%~45%とどんどん上がっていく仕組みです。

「課税所得×税率」の制度では、所得は小さい方が税負担は軽減されます。仮に妻の所得税率が5%の場合、139万円×5%=6万9500円の税負担軽減効果が見込まれます。

一方、夫は自営業として収入が増えているということなので、仮に所得税率が10%に達していれば、139万円×10%=13万9000円の税負担軽減効果を得られそうです。

どちらが節税効果が高いかというと、所得が多く、かつ所得税率が高い方がお子さん3人を税務上の扶養にした方が良いです。

医療保険(健康保険)と税金の扶養、別々にすることは可能?

ここまでの話でみると、健康保険では妻の扶養に、税金は夫の扶養にするのが良さそうです。このように社会保険と税金の扶養を別々にすることはできるのでしょうか?

自営業と会社員では利用する制度が違うため、扶養をそろえる必要はありません。お子さん3人が一方では妻の扶養に、他方では夫の扶養に入ることは可能です。

ただし、上記の場合、妻の会社では「健康保険では子供3人を扶養しているが、税制上の扶養ではない」という、ややいびつな格好となります。前述のように医療保険と税金は別の制度ではありますが、実務上は「健康保険の扶養判定をするうえで税務上の所得から判断する」というのが一般的です。

要するに、健康保険でも税務上の書類(年末調整など)を使うことで、「被扶養者」であることを確認するということです。

健康保険と税金が連動していない場合、通常の手続きとは異なる書類の提出を求められるなど、やや煩雑となることが想定されます。まずはTさんの会社に事前確認しておくことをおすすめします。

子供は夫・妻どちらの扶養に入れるべき?注意する点とは

タッチパッドを手に話し合う夫婦
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Tさんへの相談の回答としては、「お子さんを夫の扶養(税務上)に入れたからといって、必ずしもお子さんが国民健康保険証に切り替わるわけではない」ということになります。ただし、医療保険と税制で扶養が別々となる場合、やや煩わしい手続き、管理になることが想定されます。

さらに、注意していただきたい点はそれ以外にもあります。例えば、Tさんが勤める会社に家族手当がある場合、もし、税務上の扶養から外れると家族手当がもらえなくなるかもしれません。会社の制度次第なのでその点も事前に確認してください。

また、「税金上においては所得が多い方の扶養に入れたい」というのが基本的な考え方ですが、所得が多い夫が住宅ローンを組んでおり、住宅ローン減税を適用しているという場合も考えられます。この場合、家族の扶養控除の大小にかかわらず、ほとんど税負担が生じないということも。

この場合は、Tさんが引き続きお子さん3人を扶養としていた方が良さそうです。やや深く切り込むと、給与所得以外にも保険を解約する際や副収入が生じるケースなど、給与だけでは判断しづらい場合も想定されます。

ご夫婦の所得額など詳細が分かりませんが、よっぽど夫の税率が高くならない限りは、このまま健康保険・税金、どちらもTさんの扶養にしておく方が良いかもしれません。